「法務局における自筆証書遺言書保管制度」が始まります

平成3076日、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、同年713日に公布されました。施行時期は、令和2710日になります。

 

この法律は、高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続における紛争を防止する観点から、自筆証書遺言を法務局に保管する制度を新たに設けたものになります。

 

 

遺言には、①公正証書遺言、②自筆証書遺言、③秘密証書遺言の3つの方式があります。遺言書を作成しようと思った時、「自筆証書遺言」又は「公正証書遺言」のどちらかを選択される方が多いです。①公正証書遺言は、公証役場で遺言書の原本が保管されますが、②自筆証書遺言は、遺言者が自ら(または遺言者が委任した人が)保管する必要があります。

 

このため自筆証書遺言には、①遺言者が認知症等によって遺言書の存在自体を失念、②せっかく書いた遺言書を紛失、③遺言書が相続人に発見されない又は発見が遅れる、④推定相続人や第三者によって変造・偽造・破棄される恐れがある、⑤要件不備のため遺言自体が無効になる(1)、⑥検認手続が必要(2)といった不都合が生じていました。

 

※1:自筆証書遺言は、全文・氏名・日付の自署及び押印が必要です。

 

※2:自筆証書遺言は、家庭裁判所による遺言書の存在を確認する「検認」手続が必要です(公正証書遺言は検認手続不要)

 

こういった問題を解決するために出来たのが、今回の「法務局における自筆証書遺言書の保管制度」です。

 

 

「法務局における自筆証書遺言書の保管制度」とは?

 

自筆証書遺言には、先に述べたようなデメリットがありました。これを解消すべく誕生したのが、令和2年710日から始まる「法務局における自筆証書遺言書保管制度」です。

 

これまで自筆証書遺言は、遺言者自らが保管しておく必要があったため、公的機関が預かってくれるといった制度はありませんでした。今回の保管制度の創設によって、”法務局”という公的機関が自筆証書遺言を預かってくれることになります。

 

保管制度のメリット

 

法務局に自筆証書遺言を預ける際、法務局で自筆証書遺言の形式を満たしているかをチェックしてくれるので、形式不備で遺言自体が無効になるといった心配がなくなります※。保管時に形式チェックを受けることによって、相続発生後の検認手続は不要になります。

 

※チェックされるのは、自筆証書遺言の形式を満たしているかのチェックであり、法務局では内容についてのチェックやアドバイスはされません。

 

また、法務局で保管されることによって、他人が遺言書の改ざんや破棄をしたり、遺言者自身が遺言書の遺失/破棄をしたりといった恐れもなくなります。他人に内容を知られたり改ざんされたりする恐れなく、推定相続人や第三者に遺言書が法務局にあることを伝えることが出来るので、相続発生後に遺言書が発見されないといったリスクも軽減されます。

 

保管制度の手続

 

法務局へ保管申請の予約をし、遺言者本人が作成した自筆証書遺言を予約日に持参します。本人であることの確認をおこなうので、必ず遺言者本人が法務局へ出頭する必要があります。自筆証書遺言書を提出できるのは、遺言者の本籍地又は住所地又は所有不動産所在地の法務局です。

 

法務局へ自筆証書遺言書を提出する際には、「遺言書」「申請書」「遺言者の本籍のある住民票の写し(作成後3カ月以内)」「(運転免許証等の)本人確認書類」「手数料1通につき3,900(収入印紙で納付)」が必要です。法務局での保管手続が完了すると「保管証」が発行されます。

 

保管証には、遺言者の氏名、出生年月日、遺言書保管所の名称、保管番号が記載されています。保管番号は、遺言書の閲覧や撤回をする際に必要になります。

 

 

遺言者本人による閲覧

 

原本は提出した法務局で保管されますが、預けられた遺言書はデータ化されるので、法務局へ閲覧請求の予約をした上で、全国の法務局からモニターによる閲覧が出来るようになります※。また、遺言書の内容を書き直したいと思った場合は、一旦預けた遺言をいつでも撤回することができます。

 

※原本の閲覧が出来るのは、原本が保管されている法務局のみです。

※閲覧の請求が出来るのは、遺言者本人のみです。閲覧をするには手数料がかかります(モニター閲覧:1回につき1,400円。原本閲覧:1,700)

 

 

相続人等による保管の有無の確認

 

相続人や受遺者、遺言執行者は、遺言者が亡くなった場合、自筆証書遺言が法務局に預けられているかを確認することができます。確認は、全国の法務局で「遺言書保管事実証明書」を交付請求することによっておこないます。

 

相続人が「遺言書保管事実証明書」を請求する交付請求する際には、①遺言者の死亡の事実を確認できる戸籍(除籍)謄本、②請求する人の住民票の写し、③遺言者の相続人であることを確認できる戸籍謄本が必要です。また、1通につき収入印紙代800円の手数料が必要です。

 

遺言書が保管されていた場合には、保管されていることが記載された「遺言書保管事実証明書」が発行されます。

 

相続人等による遺言書の内容の確認

 

自筆証書遺言が法務局に預けられていることが分かった場合は、相続人等は、全国の法務局に設置されているモニターで、遺言書の閲覧をすることができます。モニターでの遺言書の閲覧が出来るのは、相続人・受遺者・遺言執行者等です。

 

また、相続人や受遺者、遺言執行者は、全国の法務局で、遺言書の内容が記載された「遺言書情報証明書」を交付請求することができます。

 

相続人が「遺言書情報証明書」」を請求する交付請求する際には、①(住所の記載のある)法定相続情報一覧図の写し、②請求する人の住民票の写しが必要です。「遺言書情報証明書」の発行手数料は、一通につき1,400円の収入印紙で納めます。

 

「遺言書情報証明書」は、亡くなった方名義の不動産の、名義変更登記手続きに利用することができます。尚、相続人等が「遺言書情報証明書」の交付を受けると、遺言書保管官は、請求人以外の相続人等に対して、遺言書が保管されている旨の通知をします。

 

 

法務局における自筆証書遺言書の保管制度は、令和2年7月10日から始まる新しく出来た制度です。利用するにあたっては、申請書を作成したり、必要書類を集めたりと、事前に準備することも多々あり、書類に不備があると、またやり直しになってしまいます。また、この制度はあくまで作成した自筆証書遺言書を預かってくれる制度なので、遺言書の内容にまで法務局がチェックをしてくれるわけではありません。

 

谷口司法書士事務所では、開業以来大変多くの方から遺言の作成・相続のご相談・ご依頼を承っています。「法務局における自筆証書遺言書の保管制度」に関する手続についても、是非ご相談ください。

 

 

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